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センター長挨拶

実験で未来の社会をデザインする

田口 聡志

 AIなど新しいテクノロジーの進展は、人間の社会生活に大きな影響を与えています。たとえば自動運転カーなど、AIがなす判断の倫理性をどのように考えるかという問題は、その最たる例といえますし、AIが人間の雇用に与える影響も懸念されています。さらに新たな技術の進展は、フィンテック(FinTech)など新しいビジネスやサービスを産み出すとともに、反面では経済の更なる二極化を招くおそれがあるともいわれています。このように、AIを中心とするテクノロジーの進展に見合う新しい未来社会の設計は、喫緊の課題であるといえますが、現状では、その点に関する議論が必ずしも成熟しているとは言えません。つまり、技術の進展に社会が追いついていない状況にあると言えます。

 2003年に創設された「技術・企業・国際競争力研究センター(ITEC:Institute for Technology, Enterprise and Competitiveness)」は、オムロン株式会社の創業者である立石一真氏の起業家精神と革新的技術開発の科学的研究および成果の社会還元を目的として、オムロン株式会社からの寄付基金をもとに創設された研究センターです。創設以降、前センター長である中田喜文政策学部教授、三好博昭政策学部教授の下、21世紀COE(Center of Excellence)プログラム「技術・企業・国際競争力の総合研究」等の事業を展開し、同志社大学におけるイノベーション研究の推進と、研究の国際化、若手研究者の育成等に尽力してきました。そして、これまでの活動成果をさらに深化発展させるかたちで、2020年度より、上述の問題に対して、「人間とテクノロジーが共存しうる明るい未来社会をデザインする」を合言葉に、さらなる研究のフロンティアを切り拓いていくことにしました。

 具体的には、未来志向性を有する点で近年大きく注目されている実験社会科学研究やフューチャー・デザイン研究をベースに、新しいテクノロジーが、我々人間社会の根幹にある信頼や共感といったものに対してどのような影響を与えるのかについて、①組織、②市場、③社会という3つの視点からアプローチしていきます。また、ITECがこれまで培ってきた産官学連携・文理融合のプラットフォームとしての役割や、21世紀型リベラルアーツ教育への貢献といった役割も合わせて担いつつ、革新的な研究を推進していきます。

 社会が大きく変化し、不確実な事象が続く中、人々の未来に対する不安感は大きくなっていますが、我々は、研究の力で社会を大きく変え、未来を明るいものにするという野心を持って、「まだ見えない未来」を切り拓いていきたいと思います。そして究極的には、ITECを世界一の「AI x 実験社会科学」の研究拠点とすべく、研究活動に邁進していきたいと考えています。

同志社大学 技術・企業・国際競争力研究センター
センター長 田口 聡志

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